エッセイ

 自然保護活動などを続けている地元の「NPO法人山に生きる会」が主催した 山の案内人養成講座に参加。常光寺山の山頂へと高度を上げて行った。
 これまで、いろんな山の山頂で大勢の人たちと出会い、さまざまな感動を味わってきたが、今回は思いもよらぬドラマが私を待っていた。

 「この登山靴、新婚旅行で軽井沢に行った時に履いていったのだよ」
という友の足元に目をやると、可愛い赤い登山靴が。
 山野を歩く幸せいっぱいの二人の姿を想像し、ロマンチックな気分に。
そして、今は亡きご主人の顔が脳裏をかすめた。

 思い出の靴を四十年以上も取っておくなんてすごいし、山頂で聞いた宝物の逸話も私の胸を熱くした。
 げた箱の片隅で長い年月、彼女を見守ってきた思い出の登山靴を履き、さまざまな思いを胸に歩いているであろう彼女の足元を見つめていたら、忘れかけていた私自身の思い出がよみがえってきた。
 
 二十歳のころ、地元の山住神社へ参拝に行く途中、隣村の青年団の一行と出会い、そのまま一緒に常光寺山に登ったことを・・・。

 あの時の一行の一人が、マイハズバンドである。


以上は6月20日の中日新聞に掲載された 熊谷道子さんの エッセイです。