伝承からみえてくる自然観

 私が探検をする理由を簡単に説明すると、自然を旅して死を身近に感じることで逆に研ぎ澄まされた生の瞬間を味わいたいから、ということになる。

しかし似たような活動をしていても、例えば欧米の人などはそんな風に考えるのか以前から疑問だった。自然の本質を人間には制御不能のどうしようもない世界と捉える私の感性の裏には、自然が豊かな半面、その脅威に怯(おび)えてきた日本人の精神の遍歴が反映されている気がする。

 本書は地震や津波、河川氾濫(はんらん)、台風などの自然災害に対し日本人がどのような態度で臨んできたのかを民俗の観点から振り返ったものだ。災害は被害が大きく人間と自然が最も鋭く対峙(たいじ)する最前線であるだけに、結果、日本人の自然観そのものが見えてくる内容となっている。

 津波の例をみてみよう。昔の人はウミガメの伝説の中に津波で失った最愛の人への未練を断ち切り、改めて生きる決意を込めていた。
一方、ジュゴン伝説の中には潮が引いた海岸に魚や貝を獲(と)りに行ったせいで、多くの人が大津波に呑(の)まれたという話を警句的に織り交ぜている。

他にも河川の氾濫や山地の崩壊に対処するため居住区域を工夫するなど、私たちの先祖は探検なんぞしなくても生活自体が自然と根っこの部分で結びつき、そこで暮らしていたわけだ。

 自然との共生というと昨今では商品の宣伝コピーみたいなキレイごとばかりが幅を利かせているが、本来のそれは生き死にのかかった厳しいものだった。
便利さと安全性だけを追求してきた現代の我々は急速に自然から切り離され、震災でも起きない限りその素顔に思いを馳(は)せることはなくなった。しかし一方で生活における生の実感は確実に希薄になっている……。

 どちらが良い悪いではなく、単純に自然との関係を考えることは必要なことだと思う。そこにしか生と死の秘密は存在していないのだから。

野本寛一先生が水窪へ来町

6月22日(土)13:30~
水窪文化会館ホール

野本寛一先生 

静岡県出身の民俗学者
近畿大学名誉教授

柳田国男記念伊那民俗学研究所所長歴任

自然災害と民俗

2,730円(税込)送料無料


資料はこちらから コピー

1937年 静岡県生まれ

1988年 文学博士(筑波大学)

1996年 近畿大学附属民俗学研究所所長

2004年 柳田国男記念伊那民俗学研究所所長

2007年 近畿大学名誉教授

野本寛一先生の著書の紹介

自然と共に生きる作法・水窪からの発信

1,995円(税込)送料無料

  • ・発売日
    2012年12月
  • ・著者/編集
  • ・出版社
  • ・サイズ
    単行本
  • ・ページ数
    342p
  • ・ISBNコード
    9784783810834
NPO法人山に生きる会は 水窪文化会館ホールにおいて 民俗学者であり近畿大学名誉教授の野本寛一先生をお招きして「縄文と21世紀を結ぶマチ水窪の底力」と題して講演していただきました。

野本先生は 永年水窪を訪れており水窪の民俗に関する著書も出しておられる学者で 水窪の魅力やその活かし方のヒントなどを熱く語っていただきました。
 
野本寛一先生の講演終了後 3年に亘って水窪のくらしを調査していた「遠州常民談話会」の方を交えて 野本先生を助言者にパネルディスカッションも行われました。
町内外から集まった会場の聴衆も交えて熱い熱弁が交わされました。

その中で 大学3年の孫が将来水窪に帰ってきて祖母の仕事を拡大させて頑張る意志が強いというパネラーの話も出たりして 多くの資源が埋もれている水窪の可能性に希望を感じさせてくれました。

野本先生、常民文化懇談会の皆様、会場にご出席の皆様有難うございました。